海士

3月に隠岐の島、海士町にてホテルのコンペに参加する機会がありました。結果、他事務所が最優秀とまりましたが、そこで感じたことは今後設計をするにあたり、とても良い体験であったので、以下その感想として、共同で行った事務所宛てに送付したメールの一部を転記します。

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「地域に根付くこと」「隠岐の自然の中での建築」については特に考えさせられました。
訪れた際、隠岐の島にある雄大な自然、島での人々の営みを少しですが拝見し、
その場所にしかない存在を感じ、その上で建築の存在がとても小さなものと思いました。
季節が良かったからかもしれませんが・・・私は隠岐の島にとても魅了されました。
自然への敬服、共存というような自然観でしょうか。
菱浦港の穏やかな海を望み、そういった感覚が島内にあるように感じました。

しかし島外から訪れた私が、島民の感覚を想像することは難しいです。
一般的なところで勝手に想像するには、後鳥羽上皇ゆかりの地で数々の神社があることから、
神道に由来する文化が根付き残っているのでは、とは思いました。
元来、山、海、森の豊かな自然への畏敬の念を抱き、自然を征服すべき敵としてでなく、
慎み持って接すべき聖なる空間として見ていたのではないか。
血縁、地縁でつながる居住共同体を大切にする性格ではないか。
しかし、日常生活の営みの中、そういった感覚と無縁の部分が増える現代で、
「面倒だ。もっと便利がいい」と思う気持ちなど、利己的な部分も大きいのではないだろうか。
そんなことを思う中、海士町のロゴは強く印象に残りました。
「ないものはない」
①なくてもよい②大事なことはすべてここにある  とても強い言葉です。

それは建築という立場で考えると、その場所に建物を建てることがとても恐れ多い行為に思いました。
同時に、人々の営みを支え、築くことの必要性に応えるべく、そこにある建築は、よりプリミティブな存在であってほしいとも思いました。

また、地域に根付くということについて、地産地消、地域企業の雇用を生み出すこと、多くの住民が地域で活躍できる場の提供・・・・等々
建築の場合、「地域住民の意見を踏まえること」や「地産地消として、地元材、地元会社による建設」が多く言われますが、
海士町の場合はどうなのか。答えはないのだと思いますが、その場所を肌感覚で感じることが大切なのでしょう。
「島特有の◯◯」と伺い、本土と距離があるという意味での地理的な特殊性、季節による厳しい自然環境という特殊性、規模を含む地元産業の特殊性・・・。
個別の特殊性について簡単に納得していたつもりでしたが、行政の取り組みも含み、より複雑な部分があるように思いました。
・・・中略・・・
コンペの組織体制にあったような島外文化圏によるマネジメントは、地域に根付くというところで、島民との溝を埋めることを難しくする要素になるのでしょう。

今となっては、コンペでの選ばれた提案が、一過性の建物ではなく数十年、数百年と海士町の繁栄、安泰のため島民に愛される良い建物であることを願うばかりですが、
我々のコンペ提案の中での、景観の中での見え方や見せ方、分棟の配置、だんだん広場・・・等々の検討は、
「何のための建築か。」の問いに対する答えを提示できたのではないかと思っています。

以上

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